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山口地方裁判所宇部支部 昭和44年(ワ)59号 判決

原告 国

訴訟代理人 森重文槌 外六名

被告 被相続人 秋富久太郎 相続財産管理人 秋富愛

主文

一、原告と被告の間で、訴外秋富商事株式会社が被告に対し金一五五万〇一五一円の債権を有することを確認する。

二、被告は原告に対し金九三万七、三七〇円およびこれに対する昭和四四年七月一二日から支払済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

三、訴訟費用は被告の負担とする。

四、この判決は主文第二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、原告は主文第一ないし第三項同旨の判決ならびに主文第二項につき仮執行宣言を求めた。

二、被告は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」旨の判決を求めた。

第二、当事者の事実に関する主張

一、原告の請求原因

(一)原告国(所管庁広島国税局長)は、訴外秋富商事株式会社(代表者清算人佐原隆己、以下訴外会社という)に対し別紙第一のとおり昭和四四年六月二三日現在すでに納期限を経過した滞納国税二八〇万九、六一六円の債権(以下国税債権という)を有する。

(二)訴外会社は、かねて同会社代表取締役である訴外秋富久太郎(以下久太郎という)に対し、別紙第二のとおり貸付金等の債権を有し、同三八年九月一八日当時金一五五万〇一五一円の金銭債権が存在している。

(三)久太郎は、同三七年一一月三日死亡し、相続人秋富愛、秋富公正、秋富喜久子において同三八年五月三一日山口家庭裁判所宇部支部に対し限定承認の申述をし、受理された(申述期間は、右同日まで伸長の審判がなされていた)。しかして、相続人秋富愛は同年八月二三日右裁判所において被相続人久太郎相続財産管理人(以下管理人という)に選任された(同庁昭和三八年(家)第一三八号事件)。

(四)被告管理人は、同年九月一三日付官報一一、〇二四号をもつて「相続債権者、受遺者への請求申出の催告」を公告した。そこで、原告国は、前記国税債権のうち昭和三七年度法人税(当時の滞納税額本税額二四九万一、九四〇円、加算税六二万二、七五〇円および延滞税)を徴収のため、訴外会社の久太郎に対する前記金銭債権を同三八年一〇月八日国税徴収法六二条により債権差押をし、同年同月二三日国税徴収法六七条一項により原告国が右債権の取立権を取得した旨を被告および相続人に通知し、同年同月二五日ころ被告管理人は右通知書を受領した。右により被告は、右差押債権の内容を熟知していたから、当該債権は民法九二七条所定期間内に請求を申出た債権に該当するといわなければならない。

(五)しかるに、被告は、右差押をうけた債権の不存在を主張し相続財産を換価し、同四一年一一月一日四六五万二、八九〇円、同年一二月九日一六九万二、四四七円の合計六三四万五、三三七円を各債権者に配当弁済した際、原告に対する支払をしなかつた。これは不当であつて、原告は、差押債権額に応じ九三万七、三七〇円の弁済をうけることができる。

(六)よつて、本訴により、原告と被告との間で、訴外会社が被告に対し同三八年九月一八日までの金銭貸借により金一五五万〇、一五一円の金銭債権を有することの確認を求め、被告は原告に対し金九三万七、三七〇円およびこれに対する本訴状送達の翌日である同四四年七月一二日から支払済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を命ずる裁判を求める。

二、被告の答弁

(一)請求原因(一)の事実を不知。

(二)同(二)の事実を否認する。訴外会社が昭和三六年九月八日から同月一一日ころの間土地売却代金より秋田三一に金員を支払つたことはあるが、これは久太郎のために同人の秋田三一の債務を立替弁済したものではない。

(三)同(三)の事実を認める。

(四)同(四)の事実中、被告が公告をなしたことは認めるが、その余を不知。

(五)同(五)の事実中、被告が原告主張の各配当をしたことは認めるがその余を争う。

第三、証拠関係〈省略〉

理由

〈証拠省略〉によれば、訴外秋富商事株式会社(以下訴外会社という)は、昭和三七年度法人税(法定納期限同三七年三月三一日、納期限同三八年二月二八日、督促期限同年三月一八日)滞納税金として、同三八年一〇月二三日現在本税額二四九万一、九四〇円、加算税額六二万二、七五〇円、延滞税額三八万五、四二二円合計三五〇万〇、一一二円の納税義務を負い、同四四年一〇月三〇日現在本税額六六万八、〇四五円、加算税額六二万二七五〇円、延滞税額一一五万九、八四二円合計二四五万〇、六三七円の納税義務を負つていることが認められる。

二、〈証拠省略〉によれば訴外会社は、かねて同会社代表取締役である訴外秋富久太郎(以下久太郎という)に対し、別紙第二のとおり相互に金銭を融通をした結果、昭和三八年一月二七日以降金一五五万〇、一五一円の貸付金等返還請求権を有することが認められる。この点について、被告は昭和三六年九月八日から同月一一日ころの間訴外会社が他へ譲渡した土地代金一〇九四万八八一五円のうち、久太郎が本来支払うべき個人債務三八一万五、五七〇円を立替え弁済し、よつて久太郎に対する立替金返還請求権を取得した点を極力争い、とくに訴外秋田三一に対する金一〇〇万円、金九六万円および金二二〇万円の各支払は、訴外会社と秋田間の直接の取引であつて久太郎個人は全く無関係で立替をうけたものではないと争うけれども、(一)前示各証拠ならびに弁済の全趣旨〈証拠省略〉によれば、訴外会社は代表取締役たる久太郎のいわゆる同族個人会社であつて、もともと会社財産と個人財産とは、同一人が計理を担当し、計理帳簿で、一応の区別があるにせよ、実質はいわゆるひとつの財布に属し、相互に仮払金、貸付金等の金銭融通が多く行なわれ、訴外会社の所有登記名義に属する土地を売却した代金一、〇九四万八、八一五円について、その金銭は訴外会社に帰属するものであるのに実際上訴外会社のみならず久太郎およびその家族の債務弁済に各充当され、久太郎の債務に対する出損部分は、訴外会社から久太郎個人に対する立替金請求権を成立させるものであること、(二)秋田三一は久太郎の弟で養子縁組をなした秋田虎之助の子であり、近い親族関係にあつて、久太郎とは長年相互に金銭貸借もしくは信用担保の供与を行なつていたのであるが、久太郎とは取引関係があつても、直接訴外会社と取引をしたことはない〈証拠省略〉というのであつて、被告は、原告国の所管庁である広島国税局長に対し昭和四四年三月二四日到達の書簡〈証拠省略〉において、訴外会社の土地売却代金から同三六年九月八日二二〇万円、同三七年六月五日一〇〇万円、同年八月一七日九六万円を秋田三一にそれぞれ支払つた旨を認め、右秋田は、訴外会社から現金を受領のうえ久太郎にあて貸付金の内入返済金として二二〇万円を受領した旨の証書〈証拠省略〉を作成交付していること、(三)訴外会社の土地売却代金の使途をめぐり、秋田に対する支払と同様の性質で訴外会社の久太郎に対する立替金と解するほかはないものが、桜井義雄〈証拠省略〉および山口銀行藤山支店〈証拠省略〉をめぐる取引にも認められ、とくに秋田に対する支払分のみが、立替金の性質を有しないものと目すべき特段の事情を認めるに足る証拠がないこと、などの事実関係によれば、原告主張のとおり訴外会社の久太郎に対する立替金返還請求権の存在を認めるに十分であり、他に右認定を履えすに足りる証拠はない。

三、久太郎が昭和三七年一一月三日死亡し、相続人秋富愛、秋富公正、秋富喜久子において、あらかじめ申述期間伸長の審判をえたうえ、同三八年五月三一日山口家庭裁判所宇部支部に対し限定承認の申述をし、受理されたこと、秋富愛が同年八月二三日右裁判所において久太郎相続財産管理人(以下管理人という)に選任されたこと(同庁昭和三八年(家)第一三八号事件)は、いずれも当事者間に争いがない。

四、被告管理人は、同年九月一三日付官報一一、〇二四号をもつて「相続債権者、受遺者への請求申出の催告」を公告したことは、当事者間に争いがなく、〈証拠省略〉によれば、原告国の所管庁広島国税局長は、訴外会社の滞納国税債権のうち昭和三七年度法人税(当時の滞納税額本税額二四九万一、九四〇円、加算税額六二万二、七五〇円および延滞税)を徴収のため、訴外会社の久太郎に対する前示貸付金等返還請求権を被差押債権として同三八年一〇月八日国税徴収法六二条により債権差押をし、同年同月二三日国税徴収法六七条一項により原告国が右債権の取立権を取得した旨を被告および相続人に通知し、同年同月二五日ころ被告管理人は右通知書を受領したことを認めることができる。右の事実によれば、被告管理人はもちろん相続人全員が右差押債権の内容を知りえたのであるから、原告国のなした差押および通知に該る債権は民法九二七条所定の期間内に請求を申出た債権に該当することが明らかで、原告国の所管庁広島国税局長は民法九二九条の債権者にあたる。

五、しかるに、被告は、久太郎の相続財産を換価し、同四一年一一月一日四六五万二、八九〇円、同年一二月九日一六九万二、四四七円の合計六三四万五、三三七円を各債権者に配当弁済をしたことは当事者間に争いがなく、〈証拠省略〉によれば、久太郎の相続債権者らからの債権申出額二、二四五万六、六七一円のうち、八九四万三、二七七円を弁済すべき債権金額として確認のうえ、配当弁済を行なつたのであるが、原告の差押債権額一五五万〇、一五一円を除外すべきでないから、これを加えて原告に配当すべき金額を算出すると、次の算式により金九三万七、三七〇円となる。

1,550,151(円)×6,345,337(円)/(8,943,279(円)+1,550,151(円)) = 937,370(円)

六、以上の次第であるから、原告国が訴外会社に対する滞納法人税の強制徴収として、訴外会社の久太郎に対する金銭債権を差押え、その旨を久太郎の相続人に通知していたのにかかわらず相続人および被告管理人は、限定承認相続において、原告国の差押債権金一五五万〇、一五一円の存在を否認し、配当すべき九三万七、三七〇円の支払をしていないことが明らかであるといわなければならない。そうだとすると、原告の本訴請求は、いずれも正当であり、原告と被告の間で、訴外会社が被告に対し金一五五万〇一五一円の債権を有することを確認し、被告は原告に対し金九三万七、三七〇円およびこれに対する本訴状が被告に送達された日の翌日であること記録上明らかな昭和四四年七月一二日から支払済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払うべきことを命じ、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、仮執行宣言につき、同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 早瀬正剛)

別紙第一、第二〈省略〉

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